2006-09-02

臨終

あの頃好きだったもの


中原中也 (1907-1937)

臨終

秋空は鈍色にして
黒馬の瞳のひかり
水涸れて落つる百合花
あゝ こころうつろなるかな


神もなくしるべもなくて
窓近く婦の逝きぬ
白き空盲ひてありて
白き風冷たくありぬ


窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
朝の日は澪れてありぬ
水の音したたりてゐぬ


町々はさやぎてありぬ
子等の声もつれてありぬ
しかはあれ この魂はいかにとなるか?
うすらぎて 空となるか?

中原中也詩集

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